大衆から見れば素早く流れる電車の窓の外の景色も、日常を退屈なものとして有象無象を別段深く考えることがなくなってしまった男にとっては、まるで一枚の絵のようにすら感じてしまうほどの静かなものであった。日常に関心を持たなくなってしまった男の脳は怠惰し、見える景色のフレームレートは低下してしまったのである。シャッタースピードの遅いカメラで撮影したヘリコプターのプロペラのような、世間一般からすれば淋しく感じてしまうようなことでさえ、男は何も感じることはない。なべてそういったことには無関心であるべきなのだと盲信している。